ベルリン・天使の詩
主人公は暗色の膝までのコートを着て、首にキチッとマフラーをした男性。
霊として永遠に存在する彼。
人間は彼に気付かない。
彼らはあらゆる人の心の声に耳を傾けながら、途方もない時間を過ごしている。
彼らはただ聞き続ける。
ある時は寄り添い、ある時は肩を抱き、ある時はじっと眺めている。
そんな彼らに、気付く者がまれにいる。
果たして、見える者と見えざる者の違いとは、いったい何なのだろう。
人々の心を追うことは、人生を追うこと。
人生を追うことは、歴史を追うこと。
歴史を追うことは、人間の本質を追うことだ。
舞台は壁崩壊前のベルリン。
人間の哀しみや愚かさを嫌という程見聞きしてきた彼が、
それでも
実体が欲しいと言った。
五感で感じてみたいと言った。
彼が地上に降りた時、はじめて画面に色が付く。
色のないモノクロの世界から有色の世界へと、
永遠だが何も起きない世界から命に限りのある現実の世界へと移って行く。
恋は、味気なかった人生に色をつけ、
永遠をも捨ててしまえるほど、心に満ち溢れる何かを与えてくれる。
恋はこの作品の重要な鍵のひとつではあるけれど、本作の言わんとするところは、それを含めた人生哲学。
無機的だけれど優しい、
ヴェンダース監督の美学と人間哲学を感覚で教えてくれる味わい深い作品。
※興味深いのは、ピーターフォークが、
コロンボを演じているピーターフォークとして出演している。
本当の彼は誰なのか、それは見てのお楽しみ。